庄川を飛びめぐる鳶の大き輪に総べられているわたくしの朝
忘却は優しきものか論田のそらに溶けゆく白きうろこ雲
ろんでん、とつぶやくわれのこえ寂し陽のさす道に秋が来ている
秋桜の風に崩るる道のべに祖母(おおはは)四歳息づくごとし
論田の道のかたえの石段の朱き鳥居はむかしを識るや
論田の人けなき山を刻みたる歳月の波あおき杉なみ
雪ふかき北海道へ移住せしそのたどきなき明治のこころ
海へだて峰はそびゆる何を恃み論田を出で北へ発ちしか
いとけなき面(おも)あげ見けん蜃気楼(かいやぐら)ふねの速さに遠ざかる山
雲間より光射しくるたまゆらを山のもみじは脈搏つごとし
いにしえの想いたゆとう万葉館久泉迪雄の名ありて嬉し
望郷の二上山のいただきに鐘つけば眼下のまち遠白し