紙に印刷した文字の文化を尊ぶ 文章教室と自費出版の明眸社

 私は今長男一家と同居している。長男には子供が四人。私は炊事当番をかれこれ十年やっている。家族全員の食事を作るのだが、昼は大体五人分、夜は八人分だ。買物は長男が行く。費用は人数割りで負担する。メニューは週に二回作り、買い物リストもそれに伴って作る。
 大変ですねと言われるがそれが私の仕事だと思っているし「美味しい」と言ってもらえると元気が出るから苦にはしていない。なるべく安価で労力の少なくて済む料理を考えている。今日は料理の中で人気もあり労力も少なくて済む料理について書いてみたい。
チキン料理 
 チキンは何と言っても安い。昨日は「よだれどり」NHKのビギナー向けのテキスト(二〇一九年五月号)を見てこしらえた。我家の定番料理だ。
 深鍋に水と酒、それに塩少々をくわえ、若どりのモモを一枚入れ、五分強めの中火、そのあと十分弱火で茹でる。茹でたモモを適当に切って並べ、特性よだれどりのたれをそえて出来上がり。たれは、ニンニクと生姜のみじん切り、コチュジャン、を炒めてそこへ醤油大匙一、酢大匙一半,砂糖小匙一、あれば粉さんしょう小匙一を加えたもの。辛いのが好きならコチュジャンではなくて豆板醤を使うと良いだろう。我家は子供もいるので豆板醤は使わない。(テキストのレシピは二人用なのでうちではすべて四倍する。)
 この料理はモモの下ごしらえをするともっとおいしい。モモの皮の内側に脂がついているのを削ぎ落とすのだ。
 この料理の良い点は サンラータンがおまけに作れてしまうことだ。モモ肉を取り出したあとの汁から灰汁を取り除き、人参、セロリ、キノコ類、ジャガイモなどなんでも冷蔵庫にある野菜のきれっぱしをぶち込んでコトコトしてから、お酢を少し加え、調味すれば出来上がり。
 誰かの誕生日などのもう少し力を入れたい料理の時は、ユーリンチーを拵える。これも同じテキストで知った。モモ肉一枚を二つに切り分けて多めの片栗粉をまぶしつけ、からりと揚げる。表五分、裏返して五分上げたら、外側がカリカリ、中ジューシーな特大の唐揚げの出来上がりだ。それを適当に切り分けて、タレを添える。我家は人数が多いから大量の揚げ物になり、時間もかかる。鍋を二つガス台に載せて時間を計りながら揚げる。この料理のコツは片栗粉にある。とにかくたっぷりまぶしつけると美味しい。
 タレは 二人用で にんにく、細ネギ、生姜のみじん切りに醤油、酢を各大匙二 砂糖、ごま油各小匙一。これは火にかけずそのままよく混ぜて肉にかける。
 私の好きなチキン料理の一つにトマト煮がある。玉葱とにんにくを炒め、(あればセロリも入れるともっとおいしい)そこへ大きなトマト缶を二つぶちこんでくつくつ煮る。そのあいだに塩コショウで下味をつけたモモ肉をフライパンでしっかり焼き、こんがり色づいたら次々とトマトの鍋に放り込む。ついでに赤ワインをたっぷり注ぐ。
 味付けは固形スープの素を二つほど。トマトの味がまろやかになるまで二〇分以上は煮込むといい。最後にも一度味見をして塩コショウを足す。オリーブの実などがあればくわえるとちょっとお洒落に。
味の決め手
 私は若い時、継母と一緒に飯田深雪クッキングスクールに一年間通った。そのレシピはすっかりぼろぼろになっており、今でも我が家の宝物だ。ヨーロッパの外交官だった夫と共に外地にいた深雪さんは、各国の料理を研究し、料理家になった。そこで一番覚えたことは玉葱こそがヨーロッパ料理の「出汁」にあたるものではないかということだ。カレーやシチュー、ポタージュのルーはすべて玉葱を炒めて用いるのだが、カレーの黄色み、シチューの茶色、ポタージュの白はすべて玉葱の炒め時間によるものだとおしえられた。またイタリアなどのラテン系の料理では玉葱に当るのがトマトである。トマトの旨味が大概の料理の決め手になっているように思う。
 和食の出汁は言うまでもないがかつおと昆布だ。私はいつも業務用のかつおを買って使っている。熱湯に一掴みいれてすぐ火をとめて二分。それで出汁が採れるが、最近は昆布出汁にもはまっている。なべに昆布と水をいれて前の晩から用意しておく。沸騰直前に昆布を取り出す。昆布は刻んで煮物に加える。いつも忙しい私は前の晩からというあたりで挫折する。だが食いしん坊なので諦めきれず、最近はかつおで出汁をとって、同時にステックの昆布の粉を加えている。そうやって拵える味噌汁はなかなか味わい深い。農家の友人が時々手造り味噌を送ってくれることがある。それは本当に最高の味だ。
 和食について言えば、私はいつも冷蔵庫に合わせ調味料を作って保管している。酒二カップ、醤油一カップ、砂糖半カップである。砂糖は最初は下に沈んでいるからよくかきまぜるが、やがて馴染んで溶けてしまう。煮物を拵える時は、かつお出汁にこのあわせ調味料をくわえる。煮物は昼御飯によくこしらえる。牛蒡やニンジン、コンニャク、大根、厚揚げやがんもどきをいれて、じっくりと煮る。煮物は時間をかけて薄味でもしっかり味が染みているのが一番好ましい。みどりを散らせばおいしそうに見えるが、さやいんげんやドジョウインゲンは結構高価なので、あまり手が出せない。
 今日の夕飯にもこの調味料を使った。薄切りの豚肉を軽く塩コショウして焼き、いい加減焼けたところに葱をどっさりのせて、その上からこの合わせ調味料をおたまにひとしゃくり回し掛けて、ふたをし、ネギがしんなりするまで蒸しやきにしたもの。「ばーば、今日のお夕飯何?」「あのね、お肉のねぎのっけ」「あーいい匂い」本当はカツ用の厚切り肉でがっつり行きたい料理だが、高いから薄切りの切り落しで拵える。ま、おんなじ肉なんだし。キノコの安価な秋には葱ではなくて色々なキノコ類をたっぷり載せてもおいしい。
手抜き料理
 そういえばこれ以上簡単な料理はありえないのが、白菜と豚肉のミルフィーユ。底の厚い鍋に白菜、エノキ、薄切り肉、トマト、(野菜は白菜とエノキは必須だがあとは冷蔵庫のお掃除で良い)替り番こに載せて四層ぐらいにし、水は一滴もいれないで火にかける。最近はだんだん知恵がついて、市販の塩昆布をぱらぱらと入れたり、胡麻を入れたりしている。この料理はふたをしっかりすることが大事。ほどなく白菜から大量の水分が出る。肉の色が変ったら出来上がり。たれはポン酢で良いが、私はポン酢にみじん切りの葱とか生姜の絞り汁を入れる。
 さいきん、シンプルこそがいかに美味しいかを思い知った出来事があった。外出先から大急ぎで帰宅、(『子猫のピッチ』のおばあちゃんみたいに!)もろもろのたれを拵える暇もないから、ただ焼くだけにした。チキンを一口にそぎ切りをして塩コショウをまぶし、片栗粉をつけてオリーブオイルでただ焼いたのである。最後にバターをくわえて香りをつけた。調味料としてはマヨネーズがあったので味噌汁を拵えるひまに玉葱をみじん切りにしてさらしたものと、にんにくを少々すりおろしてマヨネーズに混ぜておく。これは魚のフライなどにそえても大変おいしい。時間と材料があれば、ピーマンやニンジンのみじん切りを加えたら立派なタルタルソースができる。ただ焼いただけのチキン。悔しいがこれがとても評判がよかったのだ。お昼御飯にはよくカジキなどのパン粉焼きを拵えるが、それよりこちらはもっとシンプルだ。「ばーば 今日のお肉めっちゃ美味しかったね!」と言われる。
 テレビを見ていてチャンネルを変える時に料理番組にでくわすと、見ることが多い。けっこう料理のモチベーションがあがる。
 長くなるので料理の話は今回はこの辺にしよう。おいしい南瓜やジャガイモの食べ方、小松菜の食べ方、酢の物のバリエーションなど、書きたいことが沢山あるので、またいつか続きを書こう。
    2022・11